大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)1350号 判決 1972年3月23日
原告
高橋勝広
ほか一名
被告
不二パウダル株式会社
主文
一 被告は、原告高崎勝広に対し金四五七、二〇〇円、原告株式会社平田タイルに対し金一四九、六五〇円およびこれに対する昭和四六年四月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告高崎勝広のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告高崎勝広の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
(原告ら)
一 被告は、各自原告高崎勝広に対し、金一、〇四一、二八四円およびこれに対する昭和四四年四月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告株式会社平田タイルに対し金一四九、六五〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言。
(被告)
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決。
第二請求の原因
一 事故
原告高崎勝広は次の交通事故により傷害を受けた。
(一) 日時 昭和四四年四月一六日午後八時一五分ごろ
(二) 場所 大阪市城東区別所町九九九番地先道路上
(三) 加害車 小型貨物自動車(大阪四む三九〇九号)
右運転者 訴外樋裏清秀
(四) 被害車 小型貨物自動車
右運転者 原告
(五) 態様 追突
(六) 傷害 外傷性頸部症候群
右受傷のため原告は昭和四四年四月一六日から同年五月一九日まで三四日間入院し、退院後も同年五月二〇日から同年一〇月一四日まで実通院日数六三日の通院をなしたが、知覚神経障害(第五頸椎の変型治療に基づく、右第三頸髄神経領域の知覚神経障害)の後遺症(労働者災害補償保険後遺障害級別一四級該当)を残すに至つた。
二 責任原因
(一) 原告高崎に対し
被告は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた(運行供用者責任)。
(二) 原告株式会社平田タイル(以下原告会社という)に対し
原告会社は、後記三の(二)の損害金を原告会社の従業員である原告高崎に支払つたが、右は、被告が原告高崎に対し本件交通事故による賠償として支払うべきものを、立替えて支払つたものであるから、被告は法律上の原因なくして他人の財産により右金員の支払を免れて利益を受け原告会社に損失を及ぼしたものであり(不当利得返還義務)、そうでないとしても、本来、被告の支払うべき金員を原告会社において事務管理として立替えて被告のために有益な費用を支出したものであるから、被告は原告会社に対し右金員の支払義務があり(事務管理費用の費用償還義務)、また、原告会社は原告高崎との雇傭関係に基づき同原告に対し給料の支払いをなしたものであり、原告会社は右の支払つた限度で原告高崎に代位して、同原告が被告に対して有する同額の損害賠償請求権を取得したのであるから、被告は原告会社に対し右金員の支払義務がある(賠償者の代位)。
三 損害
原告らは、本件事故により、次の損害を蒙つた。
(一) 原告高崎
1 入院諸雑費 金一二、七八七円
昭和四四年四月一六日から同年五月一九日までの原告の入院期間中、同原告は合計金六二、七八七円の入院諸雑費を要し、同月一五日被告において右金員を支払うことを約し、同日内金五〇、〇〇〇円を支払つたが、残金一二、七八七円の支払いをしない。
2 付添費用 金三四、〇〇〇円
右の入院期間(三四日)中、同原告の妻が付添看護をなしたので、一日につき金一、〇〇〇円の割合による付添看護費。
3 通院交通費 金六、三〇〇円
前記六三回の通院に際し一回につき金一〇〇円の交通費を要した。
4 賞与損 金三〇、九〇〇円
同原告が本件事故による受傷のため昭和四四年七月一九日まで欠勤したが、そのため受けられるはずの賞与が金三〇、九〇〇円減額された。
5 逸失利益 金五九七、二九七円
同原告は原告会社に勤務し毎月金五二、九三五円の給料の支払いを受けていたが、前記の後遺症のため労働能力が五パーセント喪失し、今後同原告の就労可能期間である三二年間はその状態が継続するものと考えられるので、その現価をホフマン式計算により算定すれば、金五九七、二九七円となる。
6 慰謝料 金三六〇、〇〇〇円
前記入・通院状況、後遺症等からして慰謝料は金三六〇、〇〇〇円を下らない。
(二) 原告会社
原告会社は従業員である原告高崎が本件事故による受傷のため昭和四四年四月一七日から同年七月一九日まで九四日間欠勤したが、その間も従前と同じく給料を月額金五二、九三五円の割合で支払つた。その額は次のとおり金一四九、六五〇円である。
52,935×4×94/133=149,650
四 よつて被告に対し、原告高崎は合計金一、〇四一、二八四円およびこれに対する不法行為の日の翌日である昭和四四年四月一七日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は金一四九、六五〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで前同様の損害金の支払を求める。
第三請求原因に対する答弁
請求原因一の(一)ないし(五)、二の(一)は認めるが、一の(六)は不知、二の(二)および三の損害額はいずれも争う。
第四証拠 〔略〕
理由
第一 請求原因の一の(一)ないし(五)、二の(一)の各事実は当事者間に争いがない。
第二 原告高崎勝広本人尋問の結果によれば、原告高崎は本件事故当時原告会社芦屋営業所長として勤務していたが、本件事故による受傷のため、事故日の翌日から昭和四四年七月一九日まで九四日間原告会社を欠勤し、その間原告会社より従前と同様の割合による給料相当額の支払いを受けていたこと、原告会社には従業員が病気その他正当な理由がある場合には半年間以下の欠勤の場合給料の全額の支払いがなされる慣行のあつたこと、が認められる。
ところで、交通事故による受傷のため休業した従業員に対し、雇主が休業期間中の給与ないし休業補償を支払つた場合には、それが労働協約や就業規則に基づく場合は勿論、慣行によりあるいは恩恵的になされたものであつたとしても、その額と期間が相当であるかぎり、雇主が事故により直接被つた損害として加害者に対し損害の賠償を請求しうるものと解するのが相当であるから、本件についてみても、原告会社が支払つた給料相当額のうち後記第四の二で認定した範囲内において、被告に対し損害の賠償を求めうるものと認めるのが相当である(原告会社は請求原因二の(二)記載のように種々の法律構成をなして主張するが、右のように事故により会社が直接受けた損害として加害者側に賠償を求めうると解するのが相当である)。
第三 傷害
〔証拠略〕によれば、請求原因一の(六)記載の事実が認められ(但し入院日数は三四日で、甲第一号証中三二日とあるのは誤記と認める)、右認定に反する証拠はない。
第四 損害
一 原告高崎
(一) 療養関係費
同原告は入院諸雑費として合計金六二、七八七円を要したと主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、また、同原告自身被告より金五〇、〇〇〇円の入院諸雑費の支払いを受けたことを自認しているところであるから、前記の入院日数からして、一日当り金一、四〇〇円余の雑費の支払いを受けていることになり、特段の事情のない本件において、このうえ入院雑費を必要としたと認めることは困難であるから、入院雑費については既に支払いを受けて填補されたものとみるべきである。原告本人は、昭和四四年五月一五日頃、被告が入院諸雑費金六二、七八七円の支払いを約したと述べるが、右はにわかに措信しがたい。
次に、付添費用として金三四、〇〇〇円の請求をし、〔証拠略〕によれば、入院期間中同原告の妻が通院して付添看護をなしたことが認められるが、前記第三認定の同原告の傷害の内容等からして、入院期間中二〇日間をもつて付添いを要する期間と認めるのが相当であり、家族の付添いであることを考え、付添費用を一日金一、〇〇〇円するを相当と認める。従つて、付添費用は金二〇、〇〇〇円の範囲で認容する。
通院交通費については、同原告本人尋問の結果によれば、六三回の通院に際し一回につき金一〇〇円程度の交通費を要したことが認められるので、主張どおり金六、三〇〇円を全額認める。
以上によれば、同原告の療養関係費は金二六、三〇〇円となる。
(二) 賞与損
〔証拠略〕によれば、同原告の昭和四四年夏期の賞与につき、その対象となる期間のうち二五日間欠勤したため、本来受けうる賞与から金三〇、九〇〇円減額されたことが認められるので、主張どおり全額認める。
(三) 逸失利益
同原告は前記の後遺症によつて労働能力が五パーセント喪失し、その状態が稼働可能期間全部に亘つて継続すると主張するが、〔証拠略〕によれば、同原告は復職後従前と同様の給料の支払いを受けていることが認められるので、主張の如き逸失利益が生じたと認めることはできない。但し〔証拠略〕によれば、同原告は事故当時芦屋営業所長であつたが事故後吹田営業部の社員に配置換となり、また、欠勤があつたため昇給率の点で不利益を受けている(しかし具体的な率と額は不明)面もないとはいえない状況にあることが認められるので、この点は後記の慰謝料算定のうえで考慮することとする。
(四) 慰謝料
前記第三認定の傷害の部位、程度、入・通院状況、後遺症の程度、内容、右(三)の事情、その他本件に顕れた一切の事情を考慮して慰謝料を金四〇〇、〇〇〇円とするを相当と認める。
二 原告会社
〔証拠略〕によれば、原告高崎は本件事故当時原告会社に勤務して毎月金五二、九三五円の収入を得ていたが、本件事故のため昭和四四年四月一七日より同年七月一九日まで九四日間欠勤したこと、その間前記第二記載のとおり原告会社においてその間の給与の支払いをなしたこと、が認められる。そして、前記第三認定の傷害、後遺症、入・通院状況からして右の休業期間は相当と考えられるので、従つて、原告会社の損害は次のとおり金一六五、八六三円と算定される。よつて、主張の金一四九、六五〇円の範囲内でこれを認容する。
五二、九三五÷三〇×九四=一六五、八六三
第五 従つて、被告に対し、原告高崎勝広は金四五七、二〇〇円、原告会社は金一四九、六五〇円および右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四六年四月三日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが(本件債務は請求によつて遅滞に付されるものと解される)、原告高崎勝広のその余の請求は理由がない。
よつて原告らの請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、原告高崎勝広のその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉崎直弥)